【上梓】『世界を再著述する:組織,コミュニティ,個人の変革につながるナラティヴ実践』
かねてより取り組んでいた翻訳プロジェクト。Chene Swart の『世界を再著述する:組織,コミュニティ,個人の変革につながるナラティヴ実践』の翻訳本が完成し、出版することができました。
2020年11月に始まった取組みでしたが、ようやく形となって世に出ていくことにとても感慨深いものを感じます。5年も経っているのですが、そのような長さの感覚がなく、日々、ナラティヴを学び、実践することに必死で取り組んでいたら、気づいたらこの時間が過ぎていました。
しかし、この翻訳プロジェクトを始めた当初、自分自身がここまでナラティヴ・アプローチを探究し続けるとは想像していなかったかもしれません。ここまで私を惹きつけているもの・・・それは恐らく、ナラティヴを学ぶ過程が、正解の存在や定義づけたくなる衝動を手放し、あれかこれかの二元論ではなく、あれもこれもという不確実で曖昧なところに留まる鍛錬の道のようなものだからかもしれません。そして、やればやるほど、組織やコミュニティに向けたファシリテーションの実践を支えてくれるものだと確信が増していったからかもしれません。
本書の翻訳過程では、同時に自分のナラティヴの学びが更新されていく中で読み返すことになるので、内容への理解も厚みが増して更新されていく感覚になり、それもこの翻訳作業をとても面白く感じさせてくれました。
「経験は、思い起こされ、会話に持ち込まれるたびに、展開され、それ自体に折りたたまれます・・・人の深みとバリエーションの豊かさが構築されるのです・・・経験の外側からある瞬間を取り出し、それをそれ自体に折りたたみ、ある方向にそった襞によって作られる線を追求していけば、逃走線(line of flight) となります」(Winslade, 2009)
上記は、本書で引用されているジョン・ウィンズレイドの文章にあるジル・ドゥルーズの襞(fold)と逃走線(line of flight) の話です。逃走という言葉からネガティブな方向性をイメージしてしまいますが、決してそうではなく、新しい創造の芽が芽生えるような、ポジティブな意義がこの言葉には含まれています。
私の経験になぞらえて紐解くとするならば、学んだことが、翻訳作業の中に持ち込まれ、展開され、襞のように折り畳まれながら、私のナラティヴの知が深みと厚みを増して豊かになっていきました。そして、実際に、その襞から滲み出てきた、逃走線(line of flight)の一つのアイデアを私なりの対話型組織開発の実践に繋げています。まだその道の途中であり、色んな嵐もやってくるので、簡単には進ませてもらえませんが、その嵐も含め、私はこのて楽しんでいます。
本書は、 マイケル・ホワイトとディビッド・エプストンのナラティヴ実践を、 対個人に向けた心理療法の枠を超えて組織、コミュニティにも届けるために書かれた初の書籍になります。著者のシュネは、前段(Ⅰ~Ⅲ部)で、そのナラティヴ実践をシュネの言葉で語り直してくれています。その上で後段(Ⅳ部)でコーチングやリーダーシップ、コンサルティングへの応用に触れています。どこから読んでもいいのですが、人に敬意を示す実践であるナラティヴ・アプローチの前提となる権力とかディスコース(本書では当然のことする考えや信念)というポストモダンの哲学的背景を理解していくには、やっぱり最初から読むことをお勧めいたします。よろしかったらお手に取ってみてください。
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