ナラティヴ・アプローチ「共同的修復的実践―新しいアイデンティティのストーリーと修復された関係」

2019年のニュージランド以降、ナラティヴ・アプローチにおいてファシリテーションを実践している人といえば、このドナルド・マクミナミンだと私は思っています。
まさにナラティヴをファシリテーションに活かしたいという願いを持ってこの領域に飛び込んだ私にとっては、ロールモデルなのです。
今回はそのドナルドが、日本にやってきて「共同的修復的実践―新しいアイデンティティのストーリーと修復された関係」というテーマで、4日間みっちり彼のナラティヴを伝えてくれました。
目に止まったこと耳に残ったこと心に響いたこと、沢山ありすぎて、本当に幸せでした。共に旅をしてくれた皆様に感謝です。

修復的実践とは、ある関係の中に「問題」が入りこんでしまった時にどう修復をはかっていくかの実践です。
ドナルドは『ふたつの島とボート』という本で、一つ目の島から二つめの島への移動のメタファーを使って、この取り組みを説明してくれています。
修復といっても、元のさやに戻ることだけを目指しているわけではありません。つまり、それぞれが行きたい二つ目の島にいかに移動していくかのプロセスということは特筆するところかな、と思います。

このプロセスにおいて最も大切なところは、「話す」と「聴く」を分けること。そのプロセスをファシリテートする役割がナラティヴ・カウンセラーの役割です。
そして、相互に共同するところから、共同的修復的実践ということになるのですね。
対立事象のなっているグループ・プロセスにどう関わるか、というファシリテーターの関りと置き換えてみると、このプロセスの可能性に私は希望を感じています。

また、「問題が問題である。誰も責めない」を前提に、二つ目の島のVisionとそれを邪魔するものを考え、島を移動するために役立つことを考えるというプロセスでは、グループ・組織で目指したいところに阻む問題について、どう取り組んでいくのかというところにも活かしていけそうです。

ナラティヴでは、少し難しい言葉が出てきますが、ドナルドからは余りそういった難しい表現は聞こえてこない、というのも印象に残っています。
特に「ディスコース」というナラティヴではとても重要な言葉でさえ、ドナルドの口からは余り聞こえてこないということに、気づいた時、おそらくそれは常に目の前のクライアントのことを考えているからこそ、より実践的な言葉づかい(クライアントに使う言葉づかい)で、私たちにお話してくれていたからなのだろうと改めて感じました。

4日間の終了後、私なりにお客様の会議に取り入れる試みをしてみました。
まだまだ改善の余地はありますが、まずは、やれたことそのものの価値があると思いました。そして組織の皆さんも凄く考えてくれました。2つ目の島に行くために自分が握れそうなことも表明してくれました。
自分なりにふりかえって思うことは2つ。
まず、2つ目の島から考える意味。それは、そこに対する立場表明から始めるということ。
私たちらしさを理想とできない背景にある外部環境の変化はあるのだけれど、でもそこが変わっても「らしさ」は失いたくないという立場表明もありだったのに、そこをもっと支えられたら良かったと思っています。
そして、誰かを責めないも大事なのだけれど、自分を責めないも大事という点をしっかりお伝えすることの重要さ。
責めない=自分の中の責めに触れない、ではないというところ。そのことを責めずに扱えること、それが自分を責めないということになります。
一人ひとりの自分の中にある邪魔なものを”取り出して”優しく一緒に見つめることを「グループでやる」。

組織での実践で大切なところは、それぞれが自分を責めずにいかに自分事で語るか、、、
これからの大きなテーマになりそうです。